小説『森一族』

戦国時代を彗星の如くに生きた森一族の小説です。 SINCE:2008/9/20

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第十二話:「酷肖(二)」

「ふぅ。」
隼人は大きく息をついて、腕組みを崩し、膝の上においた右手を弄び始めた。
「当の道三は、どう思っているのやら。しかし、道三の元に集うものは皆、ただ、道三に力があるがゆえに寄り添う者たち。車輪は回し続けねばならぬ。車輪が止まれば…軸が危うい。」
隼人は、独り言であるべき言葉を与三と余語の前ではっきりと言った。
森与三の先祖は土岐家に仕えていたが、斎藤家がその力を凌駕したのを見るや、時の流れで今、この斎藤家にいる。余語も、事情は知らぬが元は尾張の人間という。強い庇護を求めて美濃へやって来た同じ穴のムジナだった。

「与三、そなたの部屋へ案内してやれ。夜は長い、仲良う話でもするがよい。」
隼人は、与三に与えた狭い部屋に更に余語盛種とその家来を押し込めて泊めさせた。
「最悪だ…。」
とお互いが思ったが、長井家の屋敷のことであればどうしようもなく床を並べて横になった。
「ふ、お前さんがどれだけお偉い客人かと思えば、儂の部屋を分けて泊めてやれとな。」
与三が皮肉めいた笑いをする。
余語は「もうよせ。世話になるぞ。」と低い声で返した。、
余語は、与三の部屋を見回す。ただただ書物が山積みにされ、その横には場違いなほどに高級な茶道具箱があった。織田瓜紋のついたものである。
「何だそれは。」余語が指さした。
「織田家より分捕った茶道具一式を隼人殿より拝領したのだ。」
「茶碗があるのなら拝見してよろしいか。」
「ダメだ。」
与三は床に転がる。足元の衝立の向こうでは、武藤ら家来と、余語の家来が並んで寝て、さらに、森家と余語家の長持が並び、もっともっと窮屈な思いをしている。部屋が気持ち悪いほどに静まり返った。与三と余語はまったく口をきかず、背を向けて横になっていた。武藤が衝立の横から顔を出して、そっと様子を伺う。余語と眼があった。余語のよき男ぶりに武藤がポッと顔を赤らめる。
 余語は、にわかに布団から起きあがり立ちあがって、両の刀を差して武藤に言った。
「こんな宵の口からむさい部屋で寝るなど馬鹿らしい。女はどこで手に入るのだ。」
武藤は「あの…」と、衝立から顔を出したまま目をパチクリさせて二の句を継げない。やがて、余語の家来も衝立から顔を出して「おでかけなさるのですか、との…」とささやいた。
与三は背を向けて布団に横になったままで答えた。
「やめておけ、初日から城下をうろついていては怪しまれる。隼人殿は、まだお前さんを警戒しているが故に、この相部屋であろうよ。」
その言葉に余語はムッとした顔をした。
「だが、そなたに歓迎されぬ部屋に泊まっていても気分が悪い。」
「だが、そなたの部屋はここだ。ここに居れ。出てゆくな。」
与三は余語にそう話しかけても余語の顔は見ない。ただ、背中を向け、虚空を見つめていた。
余語がまた床の上に腰を下ろす。そうすると、与三が話しかける言葉を思いついて口を開いた。
「先ほど、隼人殿に信長の話をしていたが…そなたは信長のことをよく知っておるのか…。」
余語は、先ほど腰に差したばかりの刀を抜いて、また枕元に置いた。
「信長…。あれが気になるのか。ああ、そうか、森殿は先日、信長の首を獲り損ねたからな。」
与三の目は、まばたきひとつしない。
「あやつ…今度来たら、決して逃しはせぬ。」
「何と。では、拙者の申すように、尾張と合戦できたほうがよいではないか。」
余語は横たわる与三に近づき、枕元に腕を置いて身を乗り出して与三の顔を覗きこんだ。
「それとこれとは別だ。今、斎藤家が尾張に手を出すのは無理だ、そなたは斎藤家の事情を知ら
なさすぎる。この家は…」
 与三は言いかけて口をつぐんだ。誰もが知る美濃の複雑な国内事情と斎藤家の地盤の緩さをくり返して語っても芸がない。与三は言葉を切り替えた。
「余語どの、ここでうまくやって行きたければ、人前でそのように生意気な口をきかぬことだな。」
「おい、おい森殿。それは自分より目立って欲しくないと、あらかじめ拙者に釘をさしておるのか。」
余語のその言葉に、与三は背中を返し、余語をギリリと睨んだ。
「やれ。斎藤家の家老達のことなら、昼に挨拶に行っただけでも、初対面の拙者に向かって森殿の悪口してきおったわ。ひどい嫌われようではないか。頭が良いのは結構だが、もっと人とうまくつき合う方法が判らぬようではその才能も生かしようが無いではないか。」
余語は自分の床にゴロリと寝ころんだ。組んだ腕の上に頭を乗せる。そしてニタリと笑って言った。
「拙者ならばもっとうまくやれる。」
与三は面白いことは一つもない。
「どうぞ、ご自由に。忠告ついでだが、金で買える女は病気持ちが多い。この部屋にいる間はやめてくれ。」
余語は、「はい、はい。」と頷いた。
「森殿、そういうそなた、嫁ごは村に置いてきたのか。」
与三は
「余計な詮索もするな。」
「はい、はい。」
与三と余語は、同じ部屋で並んで大の字になって眠った。やがて部屋が再び静けさを取り戻した時に、余語は与三の問いかけを思い出してつぶやく。
「信長…」
与三は暗闇の中、首だけ余語のほうを向ける。
「…あいつは、わっぱの頃より一流の者たちを召抱え、寸暇を惜しんで兵法に励んでおる。自ら川にも入るし、弓を握り、鉄砲も撃つ。どれをとっても、並みの腕じゃない。自分の力量を試したくて試したくてウズウズしておるのよ。世情など関係なく、また、思いがけず美濃に入っても来よう。」
「余語どのも信長に会ったことがあるのか。」
「ああ。」
「そうか。」
「信長との合戦は面白かったか。」
「かもな。」

 天文17(1548)年、尾張の織田信秀は小豆坂にて駿河の今川勢を迎え撃ち、大敗を喫する。
国外との戦いでは敗戦の連続、このままでは尾張国内も崩壊してしまう。
その時、織田信秀のとった道は、息子・信長を使うことだった。
長井隼人も、森与三も、余語盛種も予想だにしなかった事態が美濃に起こる。








酷肖(二)          第十三話:「蝶番(ちょうつがい)」
 
 

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Date:2009/01/03
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