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小説『森一族』

戦国時代を彗星の如くに生きた森一族の小説です。 SINCE:2008/9/20

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第十七話:「謀殺(二)」

 与三は、隼人の小姓ら二人を伴って、広狭入り乱れる道を馬で抜けてゆく。長井隼人から遠ざかり、ややもすると小姓の小さいほうが怒りによって馬を止めて与三にキャンキャン怒鳴り始めた。
「貴様、偉そうに何のつもりだ。なぜに関係のない我らを巻き添えにしようとするか。死ぬような危険な事は死んでもやらぬぞ。」
別の小姓が馬を進めて間に割って入り、「やめないか小次郎。」とたしなめた。彼ら二人は隼人の親戚であり、お互いに兄弟であった。兄の名は次郎といい、弟は小次郎という。
次郎は暗い表情を見せた。
「隼人様も、一体どうして道三様がお認めになった織田の使者のことで、このようなご決断をなされたのか。これではまるで…。」
まるで謀反である。十代の次郎は思いつめ、涙目になって与三の顔を見つめた。やがて涙がほろりと頬にこぼれ落ちた。自分がそのお役目になったから、というのではない。次郎は織田家の使者の暗殺を明らかに嫌がっている。
そこで与三も申し訳ない気持ちがこみあげてきて、頭を下げた。
「儂とて今、隼人殿に突然にかような命をくだされて驚くやらで、正直とまどっておる。そなたらまで巻き込んで悪かったが、あからさまな兵など引き連れたくなかったのだ。」
「やってしまったことはもうよい。これからどう致そう。織田方とて阿呆ではあるまい、不測の事態のために必ず警護の兵を揃えてくるし、道三公とて護衛の者を差し向かわせるに違いない。我らだけで何ができようか。」
与三と次郎の堂々たるや、主道に馬を進めてそのような危険な話を交わした。
与三は、決断もできずに、だんだんと口数を減らしていったが、逆に次郎はだんだんと焦燥といらつきを見せ始め、上からの目線で与三への個人批判へと走った。
「そもそも森殿は何もせずとも道三公の周囲では批判の的になっておるというのに、こんな大それた事に手を出してはどう叩かれるのか判ったものではない。隼人様も以前までは何があろうが森殿をかばっておられたが、先日の家老どもからの進言で明らかに疑惑を感じられている。隼人様がおかしくなったのはあれからだ、今はきっとそなたよりも優秀な余語殿をお傍に置きたいとお感じになったのだ。」
与三はそのような隼人の心の動きなど何も感じていなかったので、次郎の言葉に内心愕然とした。しかし、表面では冷静を装った。
「進言とな、何だそれは。また家老連中は作り話しに花を咲かせて好き勝手言っておるのか。」
一方、次郎は、与三が余語の存在を意識しているのを感じている。与三が話に興味を示したために、次郎はすかさず言い放った。
「作り話ではない。余語殿が家老達のところで挨拶している時に、森殿の話になった。余語殿と森殿は、同じ身の程でも、余語殿は慎ましい、それに対して森殿は目上に対してまでも生意気で、大口を叩き、謙虚さがまるで感じられないという話になったのだ。しかも、隼人様のいらっしゃる前でその話になったのだ。隼人様ご自身も、森殿の態度は問題に感じておられるようだ。実際に、隼人様は、よくそのことで私に愚痴を漏らされるからな。…しかし、もっとも問題となったのは、森殿が織田家の家紋のほどこしてある茶道具を大事に持っておるとはいかがな事だと…家老達に問い詰められ、茶道具については何もご存じでなかった隼人様は大いに驚かれた。」
与三を傷つけたいがため、隼人の側近として知りうる限りの悪口を引き出そうとしていた。与三は、家老らの言葉では傷つかないたちである。次郎もそれを知っている、よって、わざと話に隼人を織り交ぜてきたのだ。
だが、与三は動揺の色を見せなかった。次郎の言葉の中には明らかな誤りがある。
「あの茶道具は隼人様から直々に拝領したもの。かつて織田家から隼人殿が召し上げたものだ、嘘だと思えば隼人殿に尋ねてみればよい。それにな、そなた…」
くだらぬ話にわざわざ真面目に答えることすら馬鹿らしく、与三は吐き捨てるように言った。
「隼人殿はそなたに心を許し、他では言えぬ不満でも言えたのであろう。しかし、その言葉をそなたが儂をやりこめるために洩らすようなことは願っておらぬはずだ。」
それを耳にして、たちまち次郎は顔を紅潮させて黙りこんだ。

 加納へ向かう道の朝日がまばゆい。山と緑のすべてが光る。与三は深く呼吸して、冷静をつとめた。
ああ、今日という日が終わる時には、自分はいったいどのような結末を迎えているのか。儂は、生きておるのだろうか_____。
与三はだんだんと戦場に向かうような高揚感に支配されつつあった。この先も永遠につまらない毎日を送り続けるよりも、織田の使者を切り、大きな争いの種を撒き散らして死んでゆくのも愉しい事であるかも知れない。
加納が近くなり、辻にある店が見えてくれば、茶屋が店を開けようとしていた。
そこに、こともあろうか余語盛種がいて、軒先に腰をかけて通りを見ながら朝飯を食っていたのである。
「逃げ出しておきながら、堂々と飯を食うとは、阿呆ではないのか。」
与三が先に余語の姿を見つけて顔をそむけたが、余語の家来が与三に気づいて余語に告げた。余語は箸と茶碗を持ったまま「森殿ではないか。」と立ち上がって寄ってきた。
与三が余語を無視をして離れていくと、「おい。」と余語は慌てて駆け寄り馬の鞍にまたがる与三の左足をつかんで、そのまま馬の手綱も引っ張って与三の動きを制止した。
「先ごろ、ひと固まりの兵が尾張に向けて駆けて行ったぞ。そやつらを追っているのか。」
余語は与三にそう問いかけた。しかし与三は聞く耳を持たずに吐き捨てるように言って余語から離れようと力いっぱいに手綱を引きもどした。しかし、余語も手綱を握る手をゆるめず、手綱の引き合いとなった。
与三はカッとなって言った。
「兵だと。それは、逃げ出したお前が追われておるのではないのか。」
それには余語は首を振った。
「私ごときをわざわざ追うものか、三十騎はいたぞ。」
「もう余語どのには関係無いであろう。」
もみ合う二人の姿を、次郎と小次郎の兄弟は背後で恨めしそうに見守っていたが、やがて馬首を返して元来た道を引き返して行った。

第十六話:「謀殺(一)」      第十八話:「謀殺(三)」
 
 

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Date:2009/02/28
Comment:2

Comment

* まってました

はじめまして。待ってました!というか、探してました!
ずと探し続けてた作品に巡り合えて、本当にうれしいです。
森一族って、森氏の歴史自体おもしろいし、織田家中で信長初期から大きな存在で、とくに可成~忠政の3代は信長・秀吉・徳川と激動の時代を生き抜いた大名家で、小説や大河の題材になりそうなのに、ほとんど雑魚扱い。
出番があったとしても本能寺で蘭丸がチラリと出る程度で、寂しい思いをしてました。
信長様に最初にお城をもらったのは蘭パパなのに、ドラマでも小説でも、なぜか光秀が出世頭みたいな扱いになってるし・・・
森家を取り上げた大河長編小説に、激しく期待しております。
今後も楽しみに通わせていただきますね。
2009/03/10 【かがみ】 URL #uaIRrcRw [編集]

* ありがとうございます。

かがみ様へ:
 管理人のうききです。ご訪問くださり、そしてこんなに嬉しいコメントをおよせくださってどうもありがとうございます。m(__)m
わざわざ探してきてまで読んでくださってる方がいらっしゃるとは何とも感激です。

 森家は本当に家族ぐるみで個性たっぷりでいい味出していますよね。

 最近、この小説は週2ペースの更新になっておりますが、森可成のことをあれこれ想像しながら書くのは本当に楽しいです。マイペースながら続けていきますので、どうぞまた遊びにいらしてくださいませ。
2009/03/11 【うきき】 URL #RFphBmaY [編集]

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